人間失格/太宰治

2018/09/09

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【要旨】
純粋すぎるがゆえに人間の汚さやずるさを許容することができずに、ついに人間世界に入り込むことができなかった悲しい男の半生を描いた物語。文豪、太宰治の総決算とも言うべき傑作。作品の後半部分は自殺後に発表されており、その文章の端々からは自らの人生への悲哀が見える気がする。
何かがおかしい。そんな幼少時代。主人公の大庭葉蔵は道化という手段で自分の心の正体を偽って、おかしな世界の中でなんとか生きていくことを学ぶ。自分の正体がばれてしまえばこの世界から閉め出されてされてしまう。そんな恐怖が自分の心を外部からどんどんと引き離していく。親元を離れての進学を機に酒、煙草、女、革命運動を覚える。心の孤独を癒してくれる気がした。愛していた女性の死、罪の意識、家族との離縁。社会からの隔絶。増える酒、煙草。そんな境地を救ってくれた女性。結婚、安らぎ、そして裏切り。やがてクスリを覚え、脳病院へ。    人間、失格。

【書評】
人間失格。
いつか読まねばと思いながらもなかなか手がつかずにいた太宰治の代表作。すっと思い立って一気読みした。いや、一気読みせざるを得なかった。
要旨を読んで頂くと分かると思うが、大変ダークな物語である。
読み終えた後は悲しい気持ちでいっぱいだった。
だが、非常に面白かった。ただただ、面白かった。

夭折という言葉がある。若くして亡くなるという意味だ。
個人的に、なぜか分からないが、夭折した芸術家には惹かれるものがある。
尾崎豊、ジャニス・ジョップリン、カート・コバーン、シド・ヴィシャス、そして太宰治…。
一応言っておくが、自分は夭折することを礼賛してはいない。なにがあろうと死んでしまったらおしまいだし、自ら死ぬことほどバカらしいことはないとも思っている。
だが、生きている限り、いつか死ぬこと。これは不変の真理であるし、人の生き方が自由なように、死に方も自由であると思っている。大切なのは「生ききること」ではないかなと。
自分は今大学生であるが、大学生の死因ナンバーワンは自殺だと聞いたことがある。死ぬという道を選ぶというからには何かしらの理由があるのだろう。暗い社会情勢かもしれないし、孤独だったり、人には言えない苦悩だったりするのかもしれない。
若さというのは感性のままに生きていけるということであると思う。それは良いことばかりじゃない。もしかしたら悪いことの方が多いのかもしれない。それでも生きる意味はあると思う。
辛いことがあって、死にたいって思うこともあるかもしれない。それでも生きる意味はあると思う。
自分で死を選ぶ権利を得られるのは、若くして死ぬ権利を得られるのは、生ききった人だけだと思っている。いつどこでどのように死ぬか分からないなかで、死にたくなくても死んでいく人がいる中で、自分で死ぬという選択をすることは至高の権利である。
生ききって、生ききって、その権利を行使した人のみを「夭折」と呼びたいと思っている。
そうじゃない人はただの早死にだ。
もちろん自分は夭折できるほど生ききってはいないし、死ぬまでに生ききれるかも分からない。そんな人が大半だと思う。
ただ、夭折した芸術家の中には、生ききった人もいる。
太宰治もその一人だ。そして、太宰の人生において最後の作品である「人間失格」。この魂の叫びともいえる作品をもって生ききったのだなと思う。
大変ダークな作品である。ただ、誰しもが大庭葉蔵になる可能性を秘めているのだ。
つまり、人間失格に描かれているこの「ダークな世界」は現実世界と照らし合わせることができるということである。そして、見方を変えれば「ダークな世界」へと変貌しうるこの世界の中で我々は生きているのである。そしてその、「ダークな世界」としてこの世界を見た太宰を賞賛し、その作品に心動かされているのである。
誰も皆知っている。誰も皆分かっている。だけど目をそらしている、そんな事実がたしかにあるのだ。
それを指摘すれば狂人として、変人として見られる。孤独になる。
子供だってそうだ。子供だってその事実を知っているし、それを素直に口にする。
そうすれば大人たちはそれを押さえつける。「教育」としてそれを握りつぶす。

葉蔵は本当に人間失格だったのであろうか。
言いたいことはまだまだあるが、止めどないのでここあたりでやめておく。

何かが変だ。そう思うのに変えられない、何も変わらないとして目を逸らす。
子供にも、賢く生きなさいと目をそらすことを教える。
それが賢く生きることなのでしょうか。それが大人になるということなのでしょうか。
それならば自分は馬鹿な子供のままでいたいです。
たしかに巨大すぎて、強すぎて相手にするには無謀すぎるかもしれないけれども、
知ることからすべては始まる。信じることからすべては始まる。
少しずつでもいい。やさしい世界になったらいいなって思うんです。

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